大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和37年(行)12号 判決 1965年3月20日

原告 芦田二三子 外四名

被告 大阪国税局長

主文

被告が原告等五名に対し、原告等の昭和三一年度分贈与税(芦屋税務署長の昭和三五年七月三〇日付各決定による贈与財産価額三七六、〇〇〇円、贈与税額四五、二〇〇円、無申告加算税一一、二五〇円)につき、昭和三七年一月三一日付でなした審査の請求を棄却する旨の各審査決定はいずれもこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立。

(原告ら)

主文と同旨

(被告)

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二、当事者双方の事実上並びに法律上の主張

(原告らの請求原因)

一、昭和三一年三月二七日、訴外芦田寛蔵は原告五名に対し各現金一〇万円を贈与し、同月三〇日、原告五名は右寛蔵より東洋化工株式会社(株式一株額面金百円、以下本件株式と略称する)各千株宛を代金各一〇万円(一株百円)で譲り受けたところ、訴外芦屋税務署長(以下訴外署長と略称する)は昭和三五年七月三〇日付で原告らに対し、原告らは右寛蔵より本件株式千株宛の贈与を受けたとの理由をもつて原告らの昭和三一年度分の贈与税につき、各贈与財産価額三七六、〇〇〇円、基礎控除額一〇〇、〇〇〇円、贈与税額四五、二〇〇円、無申告加算税額一一、二五〇円と決定しその頃原告らに各通知した。

二、原告らは右決定に異議があるので、昭和三五年八月二〇日訴外署長に再調査の請求をしたところ、訴外署長は同年一〇月二七日付でこれを棄却した。

三、そこで原告らは右再調査請求棄却決定にも異議があるので同年一一月八日、被告に対し審査請求をしたところ、被告は昭和三七年一月三一日付で「訴外署長が寛蔵よりの株式の贈与したことは誤認であつて、原告らが寛蔵より現金一〇万円の贈与を受け、本件株式を額面価額で寛蔵より譲受けたことは認められるが当該株式は非上場株であるので、その時価につき株式の評価基準に基いて算定したところ、三七六、〇〇〇円となるから、右評価額と譲受代金との差額二七六、〇〇〇円は相続税法第七条の規定により寛蔵より贈与されたものとみなされるので、これと受贈現金一〇万円との合計金額三七六、〇〇〇円が寛蔵より贈与されたことになり、結局贈与金額には異動がない」との理由をもつて、原告らの審査請求を棄却する決定をし、同年二月三日原告らはその通知を受けた。

四、しかし乍ら、被告の右審査決定は次の理由によつて違法である。即ち、

(一) 訴外署長のなした決定は、本件株式の移動の事実を目して課税原因たる贈与と認定し、現金一〇万円の贈与を課税原因に加えなかつたものであるところ、被告の決定は右株式の移転につき贈与ではなく有償譲渡ではあるが、著しく低い価額の対価で株式の譲渡を受けたのであるから、原告らは当該対価と株式の時価との差額に相当する金額二七六、〇〇〇円を寛蔵から贈与により取得したものとみなし、実質上訴外署長のなした決定を一部(一〇万円)取得したにもかかわらず、突如として新たなる課税原因たる現金一〇万円の贈与を附加したものである。しかし乍ら、相続税法(以下単に法という)四五条五項の規定からは審査請求は請求自体の当否を審査すべく、新たな課税原因を付加することは「審査の目的となつた処分」(同項三号)の範囲を逸脱して新たな課税処分をしたこととなり、且つ不利益変更禁止の原則にも反することで許されない。この場合は法三五条三項又は四項による更正処分をすべきものである。

(二) 被告は、本件株式を一株当り三七六円と評価しているが本件株式の時価は他に売買実例も存するとおり一株一〇〇円であるから、これを三七六円と評価することは誤りであり、これに基く課税価額の認定も誤つている。

五、よつて、被告の決定は違法であるので原告はその取消を求めるため本訴請求に及んだ。

(被告の答弁と主張)

第一、請求原因の認否。

請求原因の一乃至三項はこれを認める。同四項の主張はいずれも争う。

第二、被告の主張。

一、本件の場合審査決定において原処分の理由となつていない課税原因を付加したことは違法ではない。即ち

(一)  審査決定において、審査庁は、原処分の理由となつている所得の存否又は数額にとらわれることなく、総所得額を再考のうえ、審査請求の可否を決定できるものである(同旨、徳島地裁昭和三一年二月八日付判決)。しかして、審査決定が不利益変更処分であるかどうかは窮極的に納税額を増額するものかどうかで決せられるべく、仮に審査決定において原処分の理由となつていない課税原因を付加しても納税額を増額していない限りその審査決定は不利益変更とはならない(同旨東京高裁昭和三二年一二月二四日、熊本地裁昭和三〇年四月一二日付各判決)

(二)  本件において原処分庁たる訴外署長は、訴外寛蔵より原告ら各人に対する現金一〇万円の贈与は株式を贈与する工作として仮装されたものと認めて、昭和三一年三月三〇日、寛蔵より原告らに本件株式各千株宛が贈与されたと認定、その一株当りの価額三七六円と認定して、原告らの各贈与財産価額を三七六、〇〇〇円として請求原因一記載のとおりの決定をした。被告は審査請求につき調査したところ、寛蔵より原告らに各現金一〇万円が贈与されており、原告らはこの資金をもつて本件株式を寛蔵より譲り受けたことは認められたが、株式の時価は訴外署長の認定どおり一株当り三七六円が相当であり、従つて三七六、〇〇〇円であり、原告らがこれを額面額の一〇万円で譲り受けたことは著しく低い対価で譲り受けたこととなるので法第七条により、当該株式の譲渡があつた時においてその対価一〇万円と時価三七六、〇〇〇円との差額に相当する金額三七六、〇〇〇円を贈与に因り取得したものとみなすべきものであることが判明した。そこで結局原告らは昭和三一年中に寛蔵より贈与により取得した金額の合計はそれぜれ金三七六、〇〇〇円となり、原処分庁の認定金額と一致したので、被告は審査請求を棄却する決定をしたものである。

(三)  よつて、被告は審査決定において原処分の納税額を増額することなく、ただ納税額の算出方法を変更したにすぎないのであるから本件審査決定に何ら違法はない。

二、本件株式の時価を三七六円とした評価に誤りはない。

(一)  訴外東洋化工株式会社(以下単に東洋化工と略称)はカーボン紙を製造し、全国的に販売網をもち相当の利益を挙げている経営状況の良好な法人であり、かつ本件株式の譲渡時期における一株当りの純資産価額は五一三円となつている。かかる莫大な含み資産を有する法人の株式をその額面金一〇〇円をもつてそのまま時価とすることは到底許されない。

本件株式につき原告主張のとおり過去において一〇〇円で売買された実例の在したことは認むるも、右は配当率、収益率、純資産価額等に関係なく数年或は一〇年近く一定している。また売買の相手方は東洋化工の同族株主、同会社の従業員、製品の販売店、保険会社等に限られ、その売買たるや対等な当事者の自由意思にもとづく交渉によるものでなく相手方等はいかなる事情があろうとも必ず額面金額で売買すること、退社のときは会社へ売渡すこと、会社と関係のない第三者へ売買してはならないこと等を強要され、特に保険会社との間の売買では額面で買戻す旨の買戻し条件、高率の配当保証等の特約がなされてあり、売買の経緯も特殊な事情であつたと認められるので、この様な売買における価格は結局特別の目的又は情況のもとに作られた売買価格ともいうべく、これをもつて時価とすることはできない。

(二)  しかして、本件株式の如く証券取引所に上場れさておらず、また気配相場もなく、その売買実例における取引価格も前記の如く正当なものと認められない様な場合においては、その株式の価額は事業の種類が同一であつてかつ資産の構成、収益の状況、資本金額等の類似する上場会社(以下類似会社という)の株式の価額に配当率、収益率、純資産価額の三要因を比較対照して比率、評価した価額を基としてその価額を評価するのが妥当である(昭和二六年一月二〇日、直資115国税庁長官、国税局長発財産評価通達一八六、一八六の二、一八六の三)。

即ち、

(1) 上場株式においてその取引価格を決定する基本的要因は、その株式自体のもつ価値、すなわち収益価値と資産価値であり、具体的には前者は配当率の高低とその将来性に、後者は会社解散時の残余財産分配額の多寡と資産内容の良否によつて現わされる。そしてこれらは相関連し優秀な資産内容が安定した高い収益力の前提となる。即ち、上場株式の株価は配当率、収益率、純資産価額の三要因によつて決定される。

(2) そうして、右株式価格を決定する基本的要因が配当率、収益率、純資産価額の三要素であるとするならば、非上場株式の株価を上場株式の株価を基準として右三要素の比較対照において算出することは極めて合理的である。

(三)  然して東洋化工の類似会社には訴外大日本インキ製造株式会社(以下大日本インキと略称する)を選択することが合理的である。即ち、東洋化工がカーボン紙の製造をしていること自体をとり上げれば必ずしも業種は同一でないかも知れないが、両会社は一部同種のものを製造しその他の製造物についても関連性が大である。そして両会社とも化学工業のうち有機化学工業である点においては同一業種といえる。両会社の資産構成の割合、収益の状況も類似している。大日本インキは同種上場会社のうちでは比較的資本金額が少なく東洋化工に類似しているもとより、比準会社としては事業の種類が全く同一で資産の構成、収益の状況、資本金額等すべての点において完全に一致していることが理想的である。大日本インキはそれらの点で若干の相違はあるが、問題なのはこれらの点において若干相違しているとしても、これらの相違が株式の時価に与える影響の点において大きな差異をもたらすかどうかである。その点比準会社に大日本インキを選択する限り右若干の相違は大きな差異をもたらすものとは考えられず、大日本インキを選択することは合理的妥当性がある。

(四)  而して、その具体的算定の根拠は次に示すとおりである。

(1) 一株当り純資産価額は五一三円である。

本件課税時期直前の昭和三〇年一二月三一日に終了した評価会社(東洋化工)の純資産価額は、総資産価額二五七、〇六二、六四五円から対外債務一〇三、一三二、九四一円を控除した一五三、九二九、七〇四円を発行済株式数三〇〇、〇〇〇株(資本金三〇、〇〇〇、〇〇〇円、一株当り払込金額一〇〇円)で除した五一三円である。

(2) 類似会社(大日本インキ)との比準価額は四五二円である。

類似会社との比準価額は類似会社の一株当り配当金額、利益金額、純資産価額を評価会社のそれぞれと対比参酌した割合を、類似会社の取引相場価額(課税時期における最終相場価額)に乗じて得た額であり、本件においては前記通達の一八六の二算式を用いた。即ち

A×(B′/B+C′/C+D′/D)÷3=比準価額

であるが、本件において

A=類似会社の昭和三一年三月三〇日(課税時期)における東京証券取引所における最終価額=一五〇円。

B=類似会社の課税時期直前に終了した事業年度の最後の日以前一年間、即ち、昭和二九年一〇月から三〇年三月までと、三〇年四月から九月までの事業年度の一年間における配当金額=一〇円、

B′=評価会社の同配当金額即ち、昭和三〇年一月一日から一二月三一日までの配当金額であり、これは一五円であるが評価会社の額面金額は一〇〇円、類似会社のそれは五〇円であるので=七〇円五〇銭、

C=類似会社の前同様直前一年間の事業年度中の一株当りの利益金額=四四円〇八銭、

C′=評価会社の右同で一七〇円五二銭であるが配当金額と同じく額面価額に比例して=八五円二六銭

D=類似会社の課税時期直前に終了した事業年度の最終の日、即ち昭和三〇年九月三〇日現在における一株当り純資産価額=一三八円

D′=評価会社の右同で前記のとおり五一三円であるが配当金額と同じく額面価額に比例して=二五六円

となる。よつて

150円×(7.5/10+85.26/44.08+256/138)÷3=226円

となるが、右二二六円は一株の額面金額を五〇円とした場合の価額であるから、これを調整し、

226円×100/50=452円

とした四五二円が比準価額である。

(3) 一株当り評価額は三七六円となる。

評価会社の一株当り価額は右比準価額によるべきであるが、評価会社一株当りの純資産価額、配当金額、利益金額が類似会社のそれぞれを超過することにより評価会社の株式一株当り価額が類似会社の取引相場価額より高額となるからこれを調整するため、類似会社の取引相場価額と類似会社比準価額との平均価額をもつて評価会社の一株当り評価額とする。

算式(300円+452円)÷2=376円

右三〇〇円としたのは評価会社の額面価額が一〇〇円、類似会社のそれが五〇円であるのでこれを一〇〇円に換算し

150円×100/50=300円

としたものである。

(被告の主張に対する原告らの認否及び反論)

一、原処分の納税額を増額さえしなければ、新たな課税原因を付加しても違法ではないとの主張について。

贈与税の課税原因は、財産の無償取得であり、その事実あれば、それと同時に且つその都度、租税債務が発生する。贈与に因り取得した財産が二以上あればその財産の合計額をもつて贈与税の課税価格とはする(法第二一条の二)けれども租税債務自体は複数と解すべきである。被告主張の理論並びに引用の判例は一歴年間または一事業年度中における個々の取引或は資産の増加を総合してその総所得を通じて一個の課税原因とし、一個の租税債務のみが発生する所得税の場合にのみ適用すべき理論であつて、これを贈与税の場合に適用することは誤りである。

二、本件株式の評価について。

(一)  被告の主張二の(一)のうち、東洋化工がカーボン紙を製造する会社であり、昭和三〇年一二月三一日現在の一株当りの純資産価額が五一三円であることは認めるが、その余は否認する。とくに売買実例について日本生命外二の各保険会社が一〇〇円で処分しているが、これらの会社は保険業法により主務大臣の厳重な監督を受けているものであつて、不当に低い価格で譲渡することは通常あり得ないところであり、流通力を欠く非上場株であるため他に有利に処分し得る相手方が存しないからこそ、一株一〇〇円で処分したのである。

(二)  被告の主張二の(二)のうち本件株式が非上場株であり気配相場もないことは認めるが、非上場株式価格を、その類似上場会社(類似会社)の株価とその主張のような比準において算定する方法は合理的ではない。即ち、法第七条の「時価」とは交換価格、換言すれば資産の流通力に対し、社会的な評価がなされた場合の金額でなければならない。従つて、流通力において根本的に相違のある上場株式と非上場株式とを同例に論ずることは極めて失当である。

被告の上場株式においてはその株価は配当率、収益率、純資産価額の三要因によつて決するという見解(被告の主張二の(二)(1))は誤りである。上場株式につき税務上証券取引所において成立する価格を時価とするのは、それが真正価値を示すとか取引所が法的に認められた制度であるとか、或はそれが配当率、収益率、純資産価額を如実に反映するとかの理由によるものではなく、右価格が処分可能、実現可能の金額の規準を示すものであり、その流通力の評価の方法、過程が一応の客観性を有するものと認められているからである。そうして、右現実に証券取引所において成立する株価は需要と供給との関係によつて決するのであつて、被告のいわゆる三要因を算数的に組合せて算出される数字ではなく、微妙な社会的経済的条件を反映したものなのである。

これに対し非上場株式は、流通力や担保に供しうる能力の有無について本質的な差異が存する。上場株式は直ちに換金処分し得、その価格は前日の出来高を基準として認識し得るが、非上場株式は、譲渡すること、まして担保に供することは極めて困難である。従つて、仮に被告のいわゆる三要因が同一の甲乙二会社が存したとしても一方が上場会社、地方が非上場会社であるとすれば、その株式に対する社会的評価は雲泥の差がある。何となれば上場会社の株式は証券取引所で成立する価格で処分し得る期待が可能であり、担保の具に供し得るが非上場会社の株式については投下資本の回収、その時期についてほとんど期待し得ず、担保として受け容れる相手もないからである。

従つて両者は全く異質であり、被告の上場株式の価格決定の理論をそのまま非上場株式に導入して平面的に比率する考え方(被告の主張二の(二)(2))は誤りである。

(三)  大日本インキを類似会社として選択すること(被告主張二の(三))も誤りである。即ち

(1) 両者の取扱商品、及び売上高は次のとおり相違しており、何らの類似性がない。

商品別

大日本インキ

東洋化工

自31・4月

売上高

至31・9月

自30・1月

売上高

至30・12月

(1)印刷インキ

(ワニスを含む)

七三六、二八八千円

四〇・九

(2)応用顔料

一二〇、八七一

六・七

(3)顔料

五五、〇〇〇

三・〇

(4)染料

二四、二九〇

一・四

(5)中間物

一、一六一

〇・一

(6)合成樹脂

七二二、九〇四

四〇・二

(7)商品

一三八、一四六

七・七

(8)カーボン紙

三二三、七三〇千円

九七・一

(9)謄写版インキ

九、六六八

二・九

一、七九八、六六〇

一〇〇

三三三、三九八

一〇〇

(イ) 右(1)は次記第一次製品等を原料とした混成加工品であり(2)乃至(6)は第一次製品であり、(8)はカーボン原紙加工品を塗布した物であり、(9)は混成加工品たる謄写版インキであつて、(2)乃至(6)と(8)は全く異質なもの、(1)と(9)は、質、用途が全く異るもの、(7)に該当するものは東洋化工には無いから取扱商品は全く異り、

(ロ) 大日本インキの売上高は六ケ月間のものであるから、これを一年に換算すると大日本インキは三、五九七、三二〇、〇〇〇円となり東洋化工はその一割七分にすぎない。

(2) 資産構成においても、次のとおり相違している。

大日本インキ(31年3月)

東洋化工(30年12月)

金額

金額

当座資産

一、二三八、二四九千円

四九・六

九九、七三八千円

三八・八

卸資産

三五九、三〇〇

一四・四

五〇、二四九

一九・五

(流動資産計)

(一、五九七、五四九)

(六四・〇)

(一四九、九八七)

五八・三

有形固定資産

七九二、七〇九

三一・七

一〇二、三七九

三九・八

無形固定資産

四、七二三

〇・二

三七六

〇・二

投資

八二、一八三

三・三

四、三二一

一・七

(固定資産計)

(八七九、六一五)

(三五・二)

(一〇七、〇七六)

(四一・七)

繰延勘定

二一、〇九八

〇・八

合計

二、四九八、二六二

一〇〇

二五七、〇六三

一〇〇

(3) 事業規模においても次のとおり相違している。

大日本インキ(31年3月) 東洋化工(30年12月)

資本金額    二五〇、〇〇〇千円  三〇、〇〇〇千円

総資産価額 二、四九八、二六二千円 二五七、〇六三千円

取引金額  二、九四一、六七九千円 三三三、三九九千円

従業員数         七一二名      一一三名

持株数          九四〇名      一四六名

(右取扱金額は三〇年四月から三一年三月の売上高による)

(四)  被告が主張二、の(四)で採用する計算方法が合理的な方法であることは争うが、その計算の基礎に採用した東洋化工の配当金額、利益金額、純資産価額は認める。

(原告らの反論に対する被告の再主張)

一、原告らは、株価は被告主張の三要因の組合せによらずして社会経済情勢を反映した需要供給の関係により決すると主張するが、この見解は株価決定の第二次的、派生的要因を最も重要な決定的要因とするもので失当である。しかも、被告の方法によつても右社会経済的要因の介在を全く度外視したことにはならない。何となれば類似会社比率価額を算出する際の類似会社の株価はすでに社会的経済的情勢の反映による影響を受けたとはいえ前記第一次的三要因を基本として形成された価額であるからである。勿論寸分違わない非上場株式の時価を算出することは不可能であるが、問題は納税者にとつて明らかに不利、不当であると認められない範囲において最も妥当と考えられる株式の時価如何ということであり、この意味において被告主張の三要因を基本として算定することは正当である。

二、また原告らは非上場株式と上場株式の比較において、流通力、担保力の社会的評価の差を強調するが、これも重要でないことを過大に重視するものである。実際例においても公開日の最終値と比較して本通達による評価額が決して不当に高額でないことも実証されている。

第三、証拠<省略>

理由

請求原因の一乃至三の事実は当事者間に争がない。

第一、法四五条五項違反の有無等について。

原告らは被告が訴外署長の決定において贈与と認定されなかつた現金一〇万円の交付を審査決定において贈与と認定したことは、原処分にない新たな課税原因を附加したこととなつて法四五条五項に違反し、且つ不利益処分となつて違法であると主張するので、先ずこの点を判断する。

相続税法第一条の二によると、贈与又は遺贈に因り財産を取得した個人で当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有するものは、贈与税の納付義務があると規定し贈与税の納付義務は一応各贈与のたびに発生するものと解し得るけれども同法二一条の二においては贈与税の課税価格はその年中における贈与又は遺贈に因り取得した財産の価額の合計額をもつてその課税価格とすることが定められており、課税価格の点では納税義務の発生原因の個数とは関係なく、その年中を通じての課税価格を算出してこれを課税の対象としたものと解せられる。そうして、贈与又は遺贈に因り財産を取得した者は、当該贈与又は遺贈のあつた年の翌年の二月一日から二月末日の間にその課税価格、贈与税額等を申告すべきもの(法二八条)とされ、税務署長は、当該申告又は修正申告に係る課税価格又は贈与税額が調査したところと異るときはその課税価格又は贈与税額につき更正(法三五条一項昭和三七年法律第六七号、国税通則法の施行等に伴う関係法令の整備に関する法律第三条による一部改正前の相続税法の規定。この項中以下同じ。)を無申告の場合においてはその課税価格及び贈与税額の決定(法三五条二項)をそれぞれなすべきものであり、これに不服ある者のなす再調査の請求(法四四条)、審査の請求(法四五条)はいずれも右課税価格及び若しくは贈与税額の更正又は決定の処分を対象とすべきものであつて、もともと課税価格の算出される基礎はその年中における贈与により取得したすべての財産の価額の合計額であるから、税務署長が課税価格の決定の基礎に明示しなかつた事実があつたとしても、それがその年中における取得した財産(贈与による)である限り審査決定の段階においてこれを課税価格の認定の基礎に加えることは何ら法四五条五項三号にいう審査の請求の目的となつた処分の取消変更の範囲を逸脱して新たな課税処分をすることにはならないと解する。そうして、本件審査決定は、課税価格の認定において原処分を上廻るものではないのであるから、何ら不利益変更処分ということはできない。この点に関する原告らの主張は理由がない。

第二、本件株式会社の評価について。

次に原告らは、被告の本件株式の一株当りの評価額を三七六円と認定して法七条を適用した処分は、法二二条による適正な時価評価を誤つた違法があると主張するので判断する。

本件株式が証券取引所に上場されていない株式であつて気配相場もないもの(以下単に非上場株式という)であることは当事者間に争なく、また昭和三〇年一二月三一日現在の一株当りの純資産価額(総資産価額から対外債務を控除したものを発行済株式数で除したもの)が五一三円となることも当事者間に争ない。

(一)  時価の解釈について。

贈与により取得した財産の価額の評価は当該財産取得の時における「時価」によるべきことは法二二条の示すとおりである。

そしてこゝに所謂時価とは、客観的交換価格をいうものと解する。上場株式の様に日々大量取引が行われ、市場性の豊富なものについては直ちにその市場価格をもつて時価とすることが妥当であることはいう迄もない。ところが市場性の少い非上場株式については、そのようにして直ちに時価を把握する手段がないのでその評価には極めて困難を感ずる。しかしその市場において相場が形成されないということが直ちにこれが客観的交換価値を持ち得ないということには通じないのであつて、非上場株式といえどもそれ自体の経済的価値を想定しうるものである以上、それは当然に一定の時価を持つているものであるといわねばならない。そしてそれが株式の額面価額によつて現わされるものでないことはいう迄もない。蓋し、株式の額面額は資本金の分割表示に過ぎず、その株式の持つ経済的実体価値とは全く一致する関係がないからである。(そのことは本件株式においても純資産価額からいえば五一三円にも上つている。純資産価額が直に株式の時価とは考えられないが、かような場合株式の価格をその額面価額と同一に考えなければならないことはいかにも不合理である。)そして時価を前記のように客観的交換価値とする限りそれはそのものと同種、同等のものの持つ売買実例によるのが相当であり、上場株式の場合には、まさに日々の相場それ自体が右売買実例となつているから、その価額を時価とすることに疑問を感じさせない訳である。従つて非上場株式においても、それにつき客観的交換価値を適正に反映したと認められる売買実例が存する場合には、その価格を時価として差支えない。被告が援用する昭和二六年一月二〇日直資一―五国税庁長官、国税局長、財産評価通達(成立に争のない乙第六号証以下本件評価通達という)も非上場株式について前記の様な売買実例があつて客観的交換価格が形成せられている場合において、それによるべきことを積極的に排除しているとは考えられない。同通達第一章通則二項(時価の意義)等の規定を参照するとその様な場合には、同通達一八六項以下の方式によらず、その取引価格を基準として評価することを妨げないものと考える。

(二)  本件売買実例は採用できるかどうかについて。

本件株式について売買実例の存すること当事者間に争いがないので、右売買実例における価格が右の様な客観的交換価格であるかどうかにつき判断する。

成立に争のない甲第一乃至四号証と証人芦田正雄、同佐野政俊の証言によると、本件株式の取引実例の数量及び価格は別紙一覧表記載のとおりであることが認められ、これに反する証拠はない。しかし前掲証拠と成立に争のない甲第七号証、同乙第五号証、同第九号証の一乃至三、同号証の五乃至一二、同第一〇号証の一乃至七、同第一一号証の一乃至五、写の写であることに争のない同第九号証の四を綜合すると日本生命保険相互会社、安田火災海上保険株式会社の各昭和二九年八月二五日の本件株式の取得、日新火災海上保険株式会社の取得は、いずれも東洋化工が工場建築資金を取引銀行から借入れるに当り増資を条件とされたために増資を行い、その際旧株主への割当に限度があつたので保険契約上の取引のあつた右三社に引受けの交渉があり三社の側としては不本意乍ら一割五分の配当を保証させた上引受けた縁故引受であり、とくに日本生命については三一年一月末日迄に内四千株を額面価格で買戻す約束もあつたことが、また後昭和三五年三月に前記三社がそれらの株式を売却したのは東洋化工において資金上の余裕もでき従業員中にも株を持ちたいとの希望が出て来たので、前記三社に対しそれよつて保険契約に影響を及ぼさないことを条件に額面価格での売却を申し込み、前記三社らにおいては額面価格の一〇〇円で売却しても配当による利廻り等において欠損とはならないと考えてこれに応じて額面価格で売却したものであることが、また江口証券株式会社の昭和三五年三月一五日及び一七日の売買はいずれもその大部分が右安田火災海上及び日新火災海上両社により東洋化工への売却を手続上、同社を通じてしたもので売渡価格一〇二円のうち二円は事実上手数料に該当するものであること及び同会社では非上場株式の取引については売注文と買注文とをあらかじめ立てておいてから会社を通ずるものでその余の取引の売却価格一〇二円のうちの二円も右と同様事実上は手数料であること、また東洋化工では従業員に株を持たせているが退職後希望すれば会社がこれを額面価格で買取つていることがそれぞれ認められ他にこれらに反する証拠はない。そうすると右売買実例の一〇〇円の価格は前記保険会社三社の関係のものは前記認定の特別の事情から江口証券を通じてなされているその余のものは旧従業員取引等特別のものでいずれもとくに額面価格で売買することを約した上での売買例であると認められ、他にこの認定を覆えすに足る証拠はない。そうすると前記の様に額面価額そのものが直ちにその株式の持つ経済的価値自体を示しているものではないのであるから、とくにこれによるべきことを条件としてなされた前記売買実例における一株一〇〇円の価格は、とうてい前記の様な意味における客観的交換価値即ち、時価を示すものということはできない。よつて本件においては被告が右売買実例を本件株式の評価に参酌しなかつた点に違法は存しない。

(三)  評価通達を採用することの是否について。

さてそのように評価すべき株式につき適正な売買実例というものも存しない場合の非上場株式の時価評価については昭和三一年二月六日直資一五国税庁長官・国税局長通達(相続税等の課税における財産評価の取扱について)により、同通達に特別の定ある場合を除くほか、前記本件評価通達によるべきこととされ(本件評価通達はもともと富裕税の課税価格計算の基礎となる財産の評価についての通達である)、被告もこれに基いて右本件評価通達及び昭和三一年二月六日直資一五の通達の特別の定に従つて本件株式を評価したものであるけれども、原告らは右通達等の定める評価方法は非上場株式に市場性、流通性のないことを無視したものであつて、合理性を欠くものである旨主張するので判断する。

右通達等は非上場株式の評価方法につき次のとおり定めている。

一、本件評価通達の定め。

百八十六証券取引所に上場されている様式又は前項に掲げる気配相場のある株式以外の株式の価額は、事業の種類が同一であつてかつ資産の構成、収益の状況、資本金額等の類似する第百八十二項又は前項に掲げる会社の株式の価額に比準して評価した価額(以下「類似会社比準価額」という。)を基としてその価額を評価する。但し評価する株式の発行会社(以下「評価会社」という。)の課税時期における総資産価額若しくは課税時期以前一年間の取引金額(……省略……)が一定金額に達しない場合又は課税時期における従業者数(……省略……)が一定数に達しない場合においては当該評価会社の課税時期における純資産価額(総資産価額から対外債務(……省略……)を控除した金額をいう。以下同じ。)を、当該評価会社の株式数で除して得た金額を基としてその価額を評価し、又は参しやくしてその価額を評価する。(以下略)

百八十六の二 前項本文の類似会社比準価額は次の(あ)か(え)らまでに掲げる算式により計算した金額による。但し(あ)から(え)までに掲げる算式により計算した金額が、次の(あ)′から(え)′までに掲げる算式により計算した金額をこえるときは(あ)′から(え)′までに掲げる算式により計算した金額による。この場合において、算式中Aは評価会社と事業の種類、資産の構成が同一であつてかつ収益の状況等が類似する取引相場又は気配相場のある会社(以下「類似会社」という。)の一株当りの第百八十二項又は第百八十五項に掲げる株式の価額とし、Bは類似会社の課税時期直前に終了した事業年度の最後の日以前一年間における一株当りの配当金額(……省略……)とし、Cは類似会社の課税時期直前に終了した事業年度の最終の日以前一年間における一株当りの利益金額とし、Dは類似会社の課税時期における一株当りの純資産価額とし、B′は評価会社の課税時期直前に終了した事業年度の最後の日以前一年間における一株当りの配当金額とし、C′は評価会社の課税時期直前に終了した事業年度の最後の日以前一年間における一株当りの利益金額とし、D′は評価会社の課税時期における一株当りの純資産価額とする(以下同じ。)。

(一) 評価会社に配当及び利益がある場合

(あ)A(B′/B+C′/C+D′/D+3)/6(あ)′A(B′/B+C′/C+D′/D)/3

(二) (以下省略)

百八十六の三 第百八十六項による株式の価額は次に掲げる算式により計算したところによる。この場合において、算式中Lは評価会社の総資産価額、取引金額及び従業者数に応じて定める割合のうち、最も高い割合とする

類似会社比準価額XL+D′X(I-L)

二、昭和三一年二月六日直資一五の通達

八 評価通達「百八十六の二」の規定により類似会社比準価額を計算する場合において、類似会社の株式の価額は株式評価便覧所載の「株価」を用いることなく相続又は贈与のあつた日に公表された類似会社の最終価格によること。

以上のとおりである。

これによると、結局通達の考方は基本的には純資産価額によるものであるけれども、それでは上場株式との釣合がとれないので規模の小さい会社の株式を除いては事業の種類が同一でかつ資産の構成、収益の状況、資本金額等の類似する上場会社又は気配相場のある会社の株式の贈与の日における最終価格を基準として評価することとしているものである。

時価の算定にあたり、その物自体の適正な売買実例が存しない場合においては、これを類似物の売買実例を基準として評価する方法は一応是認できるところであり、非上場株式について取引価格を有する類似物を求めるとすれば、右の様に事業の種類が同一で資産の構成、収益の状況、資本金額等の類似する上場会社又は気配相場を有する会社の株式とすることは一応考えうる妥当合理的な線であつて、これと比準して評価するという考方自体に大きな誤りはないといえよう。たゞ問題は原告らの指摘する様に、市場性(流通性)のある上場株式の価格形成要因に右市場性のあること自体が大きな比重を占めているとすれば、それを市場性のない非上場株式の価格評価の基準におくことは非上場株式の価値そのものを忠実に推し測り得ることとなるかどうかという点である。株式が社会的、経済的に財産上の価値を保有することは明らかであり、かゝる株式自体の保有する価値は、本質的には上場されていると否とは拘らず、会社の収益力と資産価値とによつて決つてくるべきものと考え得る。そして、上場株式における相場は一応その株式の持つその時点における将来の収益価値の平均的評価であると考えられるが、その評価の要因として市場内外の一般情勢、即ち、売手買手の関係、資産の需給関係や社会、経済、政治上の諸情勢が考慮されることは確かでありその意味においてそれは株式自体の持つ内在的価値のみを的確に示すものとはいゝ難い面も存するけれども、他面その評価に当つて前記会社の有する収益力と資産価値が基本的な要因となつていることも事実であり、且つその占める比重は決して少ないものではない。若し非上場株式が上場され、その時において交換価値を市場で形成せしめるとしたならば、やはり、人々はその会社の持つ収益力と資産価値を第一の価格決定の要因として考慮するであろう。従つて上場株式の価格形式が前記当該株式自体の持つ内在的価値のみを要因とするものでないとしても、その要因は、主導的要因であるといつて差支えないと考える。そうして前記の様に、上場株式が上場されていることにより交換価値が容易に把握できるのだとすれば非上場株式のそれを把握するについても前記のように上場された場合にどのような値段がつくかということを推算することが一番至当であり、それには現実に上場されている類似会社の株式価額に比準するという方法が最善の策ではないかも知れないが、一応次善の策といつて差支えないであろう。

一方ひるがえつて、株式の価値形式の本質的要因を会社の持つ収益力と資産価値に求めるならばそれは配当率と純資産価格とから割出して考える方向に向わなければならなくなる。そして一般的にいつて、上場株式の売買、譲渡等は、単純にその株式の持つ有価証券性に重きを置いてなされる(そのことがまた、前記株式価値の本質的決定要因を離れて一般情勢を価格形式要因に抱き込む原因ともなり、またその様にして価格が形成されることが有価証券としての流通性を促進していることにもなるが)のに対し、非上場株式のそれらは、とくに小会社となればなる程、株式の会社資産についての持分としての性格の面に重きを置き、その持分の譲渡という色彩が強くなつてくる(株式譲渡の当事者にその様な意識が濃くなる)とみることができるのであろう。そのようにみてくると、前記本件評価通達一八六項但書が規模の低い評価会社の株式については純資産価格をもつて評価の基準としていることにも相当の理由があると考えられ(東京地裁昭和三九年五月一五日判決(昭和三四年(ワ)一〇二八一号事件)は株券の奪取を原因とする損害額の算出につきこれと同様の考え方を採用している)、これはそのまゝすべての非上場株式について必ずしも理論的に当てはまらない事柄でもない。しかし非上場株式だからといつて相当の規模を有する会社の株式についてまで純資産価額による方法をとつたときは成立に争のない乙第四号証の例(昭和三一年五月大日本印刷株式会社一株当り純資産額二一二円、凸版印刷株式会社二四六円、昭和三一年一―六月東京市場相場大日本印刷株式会社一四四―一〇四円、凸版印刷株式会社一九六―一六〇円)による如く相場価格より著しく高額となることが考えられるので、これを右類似会社の株式価格に比準した価格に引値して把握することは納税者の不利益に評価することにもならない結果ともなつている。

以上、考察し来つてみると、本件評価通達等において上場株式の価額を非上場株式の価額の評価に資するにつき前者が市場の投機性によつて左右される面を充分に捨象する様な工夫にとぼしく、とくに昭和三一年二月六日直資一五の通達八項において、本件評価通達一八六の二項の適用上、算式Aの価額についても本件評価通達が「Aは(類似会社)の一株当りの第百八十二項又は第百八十五項に掲げる株式の価額とし」として同一八二項による富裕税法第一四条や、同一八五項が採用している課税時期直前の一ケ月間の平均価額によるべきとの考方を排し、課税時期のその日の最終価格をそのまま採用したことはやゝ合理性をそこなうものが存すると考えられる(一八六の二項の算式Aの価額には日々の取引相場の変動が前記市場内外の一般情勢の変動や、当該会社に固有の事情に直接に影響されやすいものであることを考えるとき、できるだけその様な直接的影響を捨象した普遍的価額を採用した方が妥当であるからたまたま課税時期その日の価額によるよりは一定期間の平均的価額によることの方がより妥当であると考えられる。)がしかし以上考察したところによれば本件評価通達等による前記算定の方法は欠点はあるにしても大局からみて法二二条の時価評価について一応の合理性のある適正を欠くものでないといゝうるのであるから本件評価通達によつて本件株式の評価をすることは適法である。

よつて以下、本件評価通達の適用の具体的適否について判断する。

(四)  類似会社に大日本インキを採択することの是非について。

本件評価通達の適用上、類似会社の選択を誤つた場合は、到底適正な評価は得られないことは明らかである。被告は東洋化工の類似会社としては大日本インキが適当であると主張し原告らはこれを争う。或る会社を類似会社とするためには、(一)事業の種類が同一であることと、(二)資産の構成、収益の状況、資本金額等が類似していることの二点が要件とされている。

まず、事業の種類については成立に争のない乙第三号証の三(国税庁の株式評価便覧)によると、大日本インキの事業の内容は、印刷用及び筆記用インキ、ワニス、塗料、染料、顔料、工業薬品の製造となつており、うち印刷インキが売上高の四〇・九%に及ぶ主製品の一つであることは原告らもその主張において自認している。そして成立に争のない甲第六号証によると、事洋化工の事業内容は製紙業者から購入したカーボン原紙に自社で製造する謄写用インキを塗布してカーボン紙として完成(カーボン紙がカーボン原紙に謄写用インクを塗布した物であることは原告らが自認している)させ、これを販売する他右謄写用インキその他少量の特殊製品をも製造販売していることが認められ、他にこれに反する証拠はない。そうだとすると、両社の製造販売する物品は同一という訳にはいかない。被告は印刷インキ製造も謄写用インキ製造も共に化学工業中有機化学部門に属することをもつて同一と主張するが、こゝに事業の種類が同一とは単に製造している物が物質的に同一であるというのでは足りず、商品としての同一性が要求されているものと解する。しかして東洋化工は謄写インキを製造しているとはいえ、前記甲第六号証によるとそれ自体を商品としている場合は極くわずかで、販売高の九七・一%までが右謄写インキを使い完成した別個の商品であるカーボン紙を製造販売しているのであるから、その同一性の有無は商品印刷インキと商品カーボン紙とを比較すべきである。そうすると前者は主として印刷業者を販売の対象とするが、後者は一般事務用品と同一の販売ルートに乗ることが考えられるから、商品としての性格は著しく異るというべきであり、むしろ事業の種類の同一性は極めて薄いといわなければならない。

次に資産の構成、収益の状況、資本金額等に類似性が存するかどうかであるが、被告提出の乙第三号証の三のみによつては大日本インキにつきそれらの比較の基礎とすべき数値を把握することは困難である(前記乙第四号証の株式会社年鑑には大日本インキの欄もあると思われるが被告は凸版印刷、大日本印刷、共同印刷の項のみしか援用しないので同号証によつても大日本インキのそれを知ることができない)が、原告らが昭和三一年三月現在及びこれに至る半年期の同社の実績の数字というものを主張し、被告はこれを明らかに争うことをしないので右原告らの主張する数字を一応判断の基礎に採り、これによつて判断すると原告らが主張する資産構成の相違即ち、事実摘示中、「被告の主張に対する原告の認否及び反論」の項二、(三)(2)の表中の各パーセンテージの相違の程度の差では資産構成の割合そのものについては、なおこの場合に要求される類似性を失うものではないと考えられるが、総資産価額、取引金額、従業員数を比較すると東洋化工の昭和三〇年一二月末日に対し、前記当事者間に争ないと認められる大日本インキの昭和三一年三月末のそれは、総資産価額で約九・七倍、取引金額で約八・八倍、従業員数で六・三倍を乙第三号証の三による昭和三〇年九月三〇日のそれは総資産価額で約八・二七倍、取引金額で約七・六倍、従業員数で約六倍を示し、資本金額においては東洋化工は三千万円に対し大日本インキは二億五千万円と八・三倍になつている。従つて、大日本インキは東洋化工に対し約八倍の事業規模を持つ会社であるということができる。そして他方大日本インキの株価は純資産価額(額面五〇円一株当り一三八円)を越えているが、前記乙第四号証からみればその逆に一株当り株価は純資産価額より低いのが通常であると考えられ、乙第三号証の三によつても収益率、配当率において同社が著しく優勢でもないのに株価が純資産価額を越えるのは同社の株価構成上その将来性が高く評価された結果ではないかと推測できるところである。

この様に大日本インキは東洋化工に較べ、事業の種類の同一性が薄く、事業規模が八倍も異り(本件評価通達においては事業規模の類似はその文言上要求していないが、資本金額の類似を要求している以上、事業規模の相違は見逃せないところである)、株価の構成上将来性が高く評価されていると考えられるなど類似会社とするのにふさわしくないといわねばならない。たゞ事業規模が八倍という開きの点のみを捉えれば一般に上場会社の方が非上場会社に位べ事業規模が大であるといえるから、本件評価通達の適用上この程度の開きは必ずしも類似性をそこなわないものとして是認しなければならない数字であるかも知れないが、これが前記の様に他の類似性を薄くする要因(事業の種類の不同性)と重り合つた場合においては、決して小さな差異ということはできなくなつてくる。そうすると、他により事業の種類が東洋化工に合致し且つ事業の規模もこれに近く、株価の評価上特殊な固有の要素のない会社が存するとすれば、それを類似会社に選ぶことの方がより合理性のある評価の得られることは明らかである。而して類似会社の選択の範囲を、乙第三号証の株式評価便覧に所載の会社の中に限らなければならないとする理由はなくかえつて東洋化工のように本店を大阪市に持つ会社にあつては大阪証券取引所の上場会社若しくは大阪における店頭取引の対象となつている株式の発行会社中にもより前記諸点において東洋化工に類似し、且つ株価の構成上標準的とみとめられる会社の有無を吟味するのが相当と考えられる。而して本件処分に当りその様な努力が払われた事跡はなく、また、本件証拠上も、その様な会社が他にあり得ないとの立証は何ら尽されていない。

よつて本件につき、大日本インキを類似会社とすることの正当性についてはなお立証が不充分であるといわなければならない。そうすると、結局それを前提とする本件の株式の評価額三七六円についてその適正と認めることはできないので、その評価額に基いてした本件審査決定もその適法性につき立証されないことに帰するので、その余の点を判断する迄もなく本件決定の取消を求める原告の請求は理由がある。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石崎甚八 潮久郎 安井正弘)

(別紙)

本件株式取引実例一覧表

(一) 江口証券株式会社関係。

売買年月日

売渡

買入

摘要

株数

単価

株数

単価

昭和二九、一一、一五

一〇、〇〇〇

七五円

新株式

昭和三五、三、一〇

二、〇〇〇

一〇二

二、〇〇〇

一〇〇円

旧株式

昭三五、三、一一

一〇、〇〇〇

一〇二

一〇、〇〇〇

一〇〇

右同

昭三五、三、一五

一五、二〇〇

一〇二

一五、二〇〇

一〇〇

右同

昭三五、三、一七

一一、四〇〇

一〇二

一一、四〇〇

一〇〇

右同

昭三五、八、二〇

九、九〇〇

一〇二

九、九〇〇

一〇〇

右同

(二) 日本生命保険相互会社関係。

昭二九、八、二五

一〇、〇〇〇

一〇〇

増資払込

昭三五、三、一一

一〇、〇〇〇

一〇〇

売却(約定日)

(三) 安田火災海上保険株式会社関係。

昭二五、五、二五

三、〇〇〇

一〇〇

買入れ

昭二六、一二、四

二、〇〇〇

一〇〇

右同

昭二九、八、二五

五、〇〇〇

七五

増資割当

昭二九、八、二五

二、〇〇〇

一〇〇

増資一般応募

昭三五、三、一五

一二、〇〇〇

一〇〇

(四) 日新火災海上保険株式会社関係。

昭二九、一〇、一一

一〇、〇〇〇

一〇〇

買入れ

昭三五、三、一七

一〇、〇〇〇

一〇〇

売却

(以上)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例